ABMとは?BtoB企業が生き残るためのマーケティング戦略と事例をわかりやすく解説

ABMとは?BtoB企業が生き残るためのマーケティング戦略と事例をわかりやすく解説

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ABM(Account Based Marketing:アカウント・ベースド・マーケティング)とは、特定の企業をターゲットに設定し、それぞれに適した戦略でアプローチする手法です。

この記事では、これからBtoB企業が生き残るうえで欠かせないABMについてわかりやすく解説します。

ABMを実施するときは、企業に最適なアプローチ手法の策定やツールの活用が不可欠です。本当に効果につながるABMのポイントを学んで、効率的にLTVの最大化を目指しましょう。

 
シニヤン

ビギニャー君、うちの新サービスを売り込む企業をピックアップしているんだけど、手伝ってくれないかな?


 
ビギニャー

もちろんです!今回はコンテンツマーケティングとかでリードを集めて育成するんじゃなくて、先に企業を絞り込んでアプローチしていく戦略なんですか?


 
シニヤン

そうだね。今回のサービスは、ABMで顧客を獲得していこうかなと思っているんだ。

ABMとは

ABMのピラミッド図。

ABMは、BtoBマーケティングの領域で注目を集めている戦略です。あらかじめ対象とする企業(アカウント)を絞り込み、各企業に適したアプローチを行っていく点が特徴です。

これだけを聞いても、他のマーケティング手法との違いをよく理解できない方は多いかもしれません。ここでは、ABMの基本知識を身につけていきましょう。

  • ABMを簡単にいうと?
  • ABMの種類
  • ABMの必要性が高まった理由
  • ABMのメリット・デメリット
  • ABMと関連用語の違い

上記の項目について詳しくみていきましょう。

ABMを簡単にいうと?

ABM(Account Based Marketing:アカウント・ベースド・マーケティング)とは、自社にとって価値の高い企業(アカウント)を絞り込み、各企業からの売上を最大化するために最適なアプローチを行う戦略です。最初にターゲットにする企業を選定し、その企業特有のニーズや課題を抽出し、それぞれにあった訴求をしていきます。

通常のマーケティング戦略では、さまざまな手段でリード(見込み顧客)を集め、育成しながらターゲットを徐々に絞り込むことが一般的です。一方で、ABMは特定の企業ありきでマーケティングを実施していきます。

ABMは、取引金額が大きい企業や大企業をターゲットにするBtoBビジネスと相性がよく、効率的に利益の最大化が目指せます。新規顧客を獲得したいときはもちろんのこと、既存顧客の売上向上を狙いたいときも有効です。

もともとは欧米の企業を中心に実施されていましたが、近年は国内でも高い注目を集めています。

ABMの種類

ABMは、ターゲットにする企業に応じて3つの種類に分けられます。

ここでは、ABMの種類について説明します。

1対1のABM

5~10社程度の企業をターゲットに設定し、それぞれに応じた訴求を行っていくABMです。丁寧に関係性を構築し、ターゲット企業にとって信頼できるパートナーになることを目指します。

1社1社に適したコンテンツの配信やコミュニケーションに注力するため、特に高い利益が得られる企業へのアプローチに有効です。

1対少数のABM

類似した50~100企業のアカウント群をいくつか作り、各グループに応じた訴求を行っていくABMです。1対1のABMよりも多数のターゲットに訴求できるため、より多くの成約を目指す場合に有効です。

効率的にアプローチできるぶん、完全にパーソナライズ化したコミュニケーションを取ることは難しくなります。グループ単位のアプローチでも効果を発揮できるように、慎重にグループを作成することが大切です。

1対多数のABM

100~1,000ほどの企業をターゲットに設定し、訴求を行っていくABMです。上記2つのABMはパーソナライゼーションと関係性の構築を重視していますが、1対多数のABMは注力すべき企業を生成するために行われます。

ABMの必要性が高まった理由

ABMは近年日本で注目されるようになったマーケティング戦略ですが、なぜ今BtoB企業はABMを行う必要があるのでしょうか。

その理由として、次の3つが挙げられます。

テクノロジーが進歩したから

ABMを実施するときは、各企業の属性や課題にあったアプローチが不可欠です。近年は、テクノロジーの進歩によりマーケティング・営業活動を支援するITツールが増えてきたため、それを有効活用してABMを行う企業が増加したのです。

ITツールの導入によりデータを収集・管理しやすくなれば、企業全体を対象にした膨大な情報の取り扱いも可能になります。自社にとって価値のある企業の見極めや、各企業への個別のアプローチが容易になったためABMのハードルが一気に下がり、多くの企業に注目されるようになりました。

意思決定プロセスが変化したから

企業の営業プロセスが変化したことも、ABMの必要性が高まった理由として挙げられます。

従来の企業は、経営層が意思決定を行うトップダウン方式を採用していることがほとんどでした。しかし近年は、積極的に従業員の意見を取り入れるボトムアップ方式を採用する企業も増えつつあります。つまり、今は意思決定に関わるメンバーが昔よりも増えているのです。

このような意思決定プロセスを採用している企業にアプローチするときは、経営層個人ではなく、組織全体に働きかけることが有効です。そのため、企業単位でアプローチしていくABMが重要視されるようになりました。

効率よくLTVを最大化できるから

ABMでは、営業部門とマーケティング部門が営業戦略を共有したうえで対象企業にアプローチしていきます。社内で連携しやすく限られた質のいいターゲットにアプローチできるため、成約率やLTVの向上を狙いやすくなるのです。

競合他社が無数に存在する市場では、新規顧客を奪い合う戦略よりも、特定の顧客から多くの利益を得る戦略のほうが効率よく利益を上げられます。少ない労力でLTVを最大化できる点も、ABMが注目されるようになった理由です。

ABMのメリット・デメリット

ABMの実施には多くのメリットがありますが、反対にデメリットも存在しています。ABMを導入する際は、メリットとデメリットの双方を理解しておくことが大切です。

ABMのメリット

ABMのメリットは、次の4点です。

  • 効率的にアプローチできる
  • 社内で連携しやすい
  • 自社のリソースを集中できる
  • PDCAを回しやすい

あらかじめ企業を特定してアプローチするABMは、とにかくコミュニケーションをパーソナライズできる点が特徴です。1社1社のニーズにピンポイントで訴求できるため効率がよく、社内で連携して一貫性のあるアプローチがしやすくなります。

また、自社のリソースをターゲットにしている数社へ集中できるため、本当に成果につながる施策を無駄なく実施できます。各企業への訴求や反応を管理しやすくなることで課題発見や改善が容易になり、スピーディーに戦略をブラッシュアップできる点もメリットです。

ABMのデメリット

ABMのメリットは、次の3点です。

  • ターゲットが中小企業の場合は利益が上がりにくい
  • 商材の向き・不向きがある
  • 組織全体で取り組む必要がある

ターゲットを絞り込んでアプローチするABMは、契約数や予算が限られている中小企業をターゲットにする場合、利益が上がりにくくなる可能性があります。1回の契約で多くの利益を得られる企業が対象でない場合、アップセルやクロスセルが難しい商材を取り扱う場合は、ABMの費用対効果は低くなります。

またABMを導入するときは、マーケティングや営業、カスタマーサービスなどの複数部門が連携しなければいけません。組織全体で取り組む必要があるため、準備や連携に時間がかかることを押さえておきましょう。

ABMと関連用語の違い

ABMには、混同しやすいマーケティング用語がいくつか存在しています。

各関連用語との違いをしっかりと理解しておきましょう。

リードベースドマーケティングとの違い

リードベースドマーケティングとは、個人のリードをターゲットにする営業手法です。さまざまな施策で多くの見込み顧客を獲得するところからスタートして、少しずつ注力すべきリードを絞り込んでいきます。

一方でABMは、最初に対象企業を絞り込んでアプローチする営業手法です。また、数少ない企業から信頼を獲得しながら、少しずつ対象企業を拡大していく点がリードベースドマーケティングと大きく異なります。

デマンドジェネレーションとの違い

デマンドジェネレーションとは、企業が抱えている潜在的な「デマンド(需要)」を掘り起こす営業活動です。多くのリードにアプローチを行い、スコアリングを通じて対象を絞り込んでいきます。

特定の企業にアプローチしてニーズや需要を掘り起こす点はABMと似ていますが、デマンドジェネレーションはアプローチ対象を最初から絞り込みません。

インバウンドマーケティングとの違い

インバウンドマーケティングは、オウンドメディアやSNS、メールマガジンなど顧客に価値のあるコンテンツを配信し、自社に興味を抱いてもらうマーケティング手法です。特定の企業に適したコンテンツを配信することもあれば、不特定多数のユーザーに向けて配信することもあります。

インバウンドマーケティングは、ABMを実施するときのアプローチ手法のひとつです。効率よくABMを実施するには、インバウンドマーケティングの活用が欠かせません。

 
ビギニャー

へぇ~。最初に対象企業を絞り込んでしまうと利益が減ってしまいそうですが、絞り込むからこそ利益を最大化できることもあるんですね!


 
シニヤン

そうなんだよね、意外性があって少しびっくりするよね。うちの企業も今後はABMに力を入れていきたいみたいだから、ビギニャー君も一緒に戦略の立て方を学んでみない?


 
ビギニャー

ぜひぜひっ!

ABM戦略の立て方

ABMを始めるときは、次の手順で戦略を立てていきましょう。

  • ABM担当チームを編成する
  • 対象企業を絞り込む
  • 意思決定者・キーパーソンを特定する
  • 各アカウントに適したアプローチ手法を策定する
  • KPIを設定する
  • 施策の実施と効果検証を行う

各プロセスの詳細を説明します。

ABM担当チームを編成する

まずは、一貫性のあるアプローチを実現するためにABMを担当するチームを編成しましょう。

  • マーケティング
  • 営業
  • インサイドセールス
  • カスタマーサービス

上記のような異なる部門が連携してABMを実施するには、ノウハウを持ったスタッフを選任し、業務フローを再構築しなければいけません。また、部門間の連携をスムーズにするためのデータベース統合も不可欠です。

各部門の連携や調整を担うリーダーを決定し、今後メンバーそれぞれが担う役割やアプローチ戦略についてしっかりと共有しておきましょう。

対象企業を絞り込む

次に、アプローチ対象企業の絞り込みを行います。

選定基準にはさまざまなものがありますが、一例として次のような要素が挙げられます。

  • 市場における影響度の大きさ
  • 業界における売上規模
  • アップセルやクロスセルのしやすさ
  • 契約を継続する可能性
  • 成約見込みの高さ

ここで大切なのは、LTVが高くなりそうな企業だけではなく、業界で高い影響力を持つ企業もターゲットにすることです。そうすることで、周辺の企業が興味を抱いてくれたりアプローチしやすくなったりする可能性が高まります。

意思決定者・キーパーソンを特定する

ターゲットアカウントを選定したら、その企業における意思決定者・キーパーソンを特定します。

ABMは企業全体にアプローチする戦略ではありますが、営業効率を高めるために意思決定者を把握しておくことは大切です。意思決定者の担当部署や立場を把握できれば、提案内容を最適化しやすくなります。

意思決定者やキーパーソンと接点を持っていない場合は、Web広告やコンテンツマーケティング、セミナー、ダイレクトマーケティングなどで接点を創出しておきましょう。

その過程で次の情報を引き出しておくと、その後のアプローチがスムーズになります。

  • Budget(予算):予算があるか、確保可能か
  • Authority(決裁権):決裁権がある人物に提案できているか
  • Needs(必要性):導入の必要性があるか
  • Timeframe(導入時期):導入タイミングはいつか

上記の要素は「BANT情報」と呼ばれ、商談の確度を把握するときに活用されます。

各アカウントに適したアプローチ手法を策定する

ここまでの準備が完了したら、各アカウントに適した手法でアプローチ方法を考えていきます。

すでにターゲットにするアカウントが絞り込まれているので、最適なタッチポイントや訴求内容の仮説を立てやすい点がABMのメリットです。特に意思決定者への訴求を意識しながら、次の4つの施策を通じてアプローチしていきましょう。

接点の創出

対象企業と接点を持ち、自社を認識してもらう施策です。企業関係者の行動やニーズを理解し、彼らの情報収集手段や閲覧媒体、出現場所を狙って接触を図ります。

具体的な施策の例は、次のとおりです。

  • Web広告やSNS広告の配信
  • テレマーケティングの実施
  • メールマーケティングの実施
  • セミナーの開催
  • 展示会への出展
  • プレスリリースの配信

このとき積極的に商品を売り込むのではなく、あくまで接点を創出することにとどめることが大切です。信頼関係を構築できていない段階で営業してしまうと、嫌悪感を抱かれてしまうおそれがあります。

コンテンツの配信

接点を創出したターゲットに対しては、自社に興味を抱いてもらうためのコンテンツ施策を実施しましょう。対象企業が必要とする情報を提供することで、関係性を構築したり自社商材を認知してもらったりする効果を狙います。

具体的な施策の例は、次のとおりです。

  • オウンドメディアでの情報発信
  • SNSにおけるコミュニケーション
  • ホワイトペーパーの配布
  • セミナーの開催
  • メルマガやDMの送付

コンテンツ配信の際は、情報の受け取り手が誰なのかを意識しましょう。

現場スタッフが求めている情報と経営層が求めている情報は、決して同じではありません。企業だけではなく、個人単位でもアプローチをパーソナライズ化できると、より強く訴求できます。

企業情報の蓄積

効果的なABMには、企業内部に関する詳細な情報が不可欠です。抱えている課題や業務プロセス、意思決定者のプロフィールなど、名刺交換だけではわからない情報が得られれば、ターゲットを狙い撃ちする施策を実施しやすくなります。

企業情報を蓄積するには、ターゲット企業とのコミュニケーションが不可欠です。電話やメールを活用した直接的なコミュニケーションはもちろん、ターゲットの反響につながるコンテンツの制作を進めていきましょう。

信頼関係の構築

最後のステップとして、信頼関係の構築を行います。蓄積した情報を活用して、意思決定者やキーパーソンに対してより踏み込んだ情報提供を継続しましょう。あわせて反応や行動を蓄積・分析して、ニーズが顕在化したタイミングで商談につなげます。

KPIを設定する

施策の方向性を策定できたら、施策ごとのKPIを設定しましょう。中間目標となるKPIを設定しておけば、効果の振り返りや改善を行いやすくなります。

役立つKPIの一例としては、次のような指標が挙げられます。

  • 保有リード数(企業単位・リード顧客単位)
  • コンテンツへのアクセス数
  • メール開封率
  • 架電数・通話時間
  • アポイント数
  • 商談化率
  • 受注数
  • 受注単価

部門や実施する施策によって最適なKPIは異なります。目的の達成にどのようなKPIが必要なのか、しっかりと考えて設定しましょう。

施策の実施と効果検証を行う

策定した施策やKPIにもとづいてターゲット企業にアプローチします。リードの反応や施策の効果を常にモニタリングして達成度合いを把握しつつ、課題点がある場合は改善していきましょう。

対象を特定したうえでアプローチするABMは、分母は少なくても成約確度が高くなりやすい傾向にあります。たとえすぐに反応が得られなくても、時間・労力を割いてじっくりと訴求していくことが大切です。

 
シニヤン

ABMで重要なのは、対象企業の理解とアプローチのパーソナライゼーションなんだ。そのためには、いろいろな方法で接点を持って企業の情報をたくさん蓄積しておく必要があるんだよ。


 
ビギニャー

特定の企業から確実に成約を勝ち取るためにも、より深い訴求をしないといけないんですね……。う~ん、そのための各企業情報の管理とか分析って、ちょっと難しそう。


 
シニヤン

そうだね。アナログで管理したりExcelで管理したりするのは難しいから、専門のツールの活用は必須になるね。

ABMに役立つツール

ABM・MA・SFA・CRMの関係性を図解

ABMを実施するときは、施策の段階に応じて複数のツールを活用する必要があります。

  • リード獲得・育成段階
  • 商談段階
  • 関係性維持段階

各プロセスで役立つツールの詳細をみていきましょう。

リード獲得・育成段階

アプローチの対象となる企業を獲得・育成する段階で役立つのは、ABMツールとMAツールの2つです。

ABMツール

ABMツールは、文字通りABMの実施に特化したマーケティング支援ツールです。自社にとって価値の高いターゲットの選定からアプローチ活動の自動化、営業記録の一元管理などを行えます。

リードの獲得や育成、商談獲得に加え、各部門で使用するツールの連携をサポートしてくれます。

MAツール

MA(Marketing Automation)ツールは、リードの獲得からデータの管理、アプローチの効率化を通じて、マーケティング活動を自動化してくれるツールです。通常は、顧客単位で使われます。

獲得したリードの意欲を高め、商談に導くために活用します。ツールによっては、リードのスコアリングやキャンペーン管理、個々に適したマーケティングの実施が可能なので、ターゲット選定やコミュニケーションに役立ってくれるでしょう。

商談段階

確度が高まった企業を商談に発展させるときは、SFA(Sales Force Automation)が便利です。SFAは営業活動のサポートに特化したツールで、「営業支援システム」とも呼ばれています。

SFAには、顧客管理や商談の進捗管理、売上の予実管理機能などが搭載されています。営業活動の効率化はもちろんのこと、営業ノウハウを標準化する効果も期待可能です。

関係性維持段階

ABMでは、成約に至った顧客と良好な関係性を維持し、契約継続やアップセル・クロスセルを通じてLTVを最大化する施策も重要です。この段階で役立つのが、CRMシステムです。

CRMシステムは、営業活動後の顧客管理や行動履歴の蓄積・分析、お問合せ管理などを行えます。契約後であっても、顧客ニーズは常に変化し続けます。その時々のニーズに応じたサービスを提供しつつ関係性を維持するには、CRMで適切に顧客情報を管理することが重要です。

 
シニヤン

ABMに役立つツールといっても、他のマーケティング施策でも活用されているツールばかりだから、ビギニャー君にもなじみ深いものばかりだと思うよ。


 
ビギニャー

本当だ!いつものデジタルマーケティングで使っているツールって、ABMのときも利用できるんですね!


 
シニヤン

そうなんだよね。ツールを活用したうえで、こんなことも意識するとABMを成功させやすくなるよ。

ABMを成功させるポイント

ABMで成果を挙げるには、以下の6つのポイントを意識する必要があります。

  • 導入の向き・不向きを理解しておく
  • 各部門・各ツールを連携させておく
  • 失注した商談に再度取り組む
  • 大企業にこだわりすぎない
  • フレームワークを活用する
  • 「ABX」を意識する

どのようなことなのか、各項目の詳細をみていきましょう。

導入の向き・不向きを理解しておく

ABMは成功すれば大きな利益をもたらしてくれる戦略ですが、必ずしもすべての企業に向いているわけではありません。ターゲットにする企業や取り扱っている商材によっては、他のマーケティング戦略のほうが向いている場合もあります。

ABMの導入が向いている企業や商材の特徴は、次の通りです。

  • 大企業をターゲットにしている場合
  • 1顧客あたりの取引金額が大きい場合
  • アップセル・クロスセルが成功しやすい企業の場合
  • すでに顧客データが蓄積されている企業の場合

反対に、中小企業をターゲットにしていて1顧客あたりの取引金額が小さい場合、アップセルやクロスセルに向いている商材がない場合は、ABMの費用対効果が低くなる傾向にあります。

まずは自社にABMが必要かどうか、冷静に見極めることが大切です。

各部門・各ツールを連携させておく

ABMでは、各部門の足並みをそろえて一貫性のあるアプローチをする必要があります。部門ごとに対応品質の違いが出ないよう、事前にしっかりと方向性を擦り合わせておきましょう。

また、部門間のスムーズな連携にはデジタルツールを活用したデータ連携が欠かせません。マンパワーだけでABMを実施するのは難しいので、ツールの導入・連携を済ませておいてください。

失注した商談に再度取り組む

不特定多数の企業をターゲットにする戦略とは違い、ABMは対象企業が限られる戦略です。そのため、反応が薄いリードや失注したリードを容易に諦めると、すぐにアプローチ対象の企業がなくなってしまいます。

より多くの顧客を獲得するには、失注したターゲットをナーチャリングのフェーズに戻し、継続的にアプローチしていく必要があります。「リードのリサイクル」を繰り返し、顧客を取りこぼさないようにすることを意識しましょう。

大企業にこだわりすぎない

ABMは規模の大きな企業に適した戦略ではありますが、大企業だけにこだわりすぎることは推奨できません。たとえ大企業の顧客を獲得できても、解約率が高かったり契約金額が低かったりすれば、費用対効果は低くなってしまうためです。

ABMでは、自社にとってLTV・価値が高い企業を見極めることが肝心です。企業規模だけにとらわれず、多角的な観点でターゲットを選定しましょう。

フレームワークを活用する

効率的にABMを実施するには、フレームワークの活用が効果的です。

ターゲットの絞り込みや自社理解を深める際は、次のようなフレームワークを用いてみましょう。

STP分析

STP分析は、ターゲットや自社の立ち位置を考えるためのフレームワークです。

  • セグメンテーション(Segmentation):年齢や嗜好などで消費者を分類する
  • ターゲティング(Targeting):ターゲットにする消費者を絞り込む
  • ポジショニング(Positioning):自社の立ち位置を決める

上記のステップで情報を整理することで、アプローチすべき企業や自社の強みを明確にできます。対象企業を絞り込むときに役立つでしょう。

3C分析

3C分析は、自社の経営環境について分析するフレームワークです。

  • 顧客や市場(Consumer):市場規模や成長性、顧客のニーズ、消費行動の傾向など
  • 競合(Competitor):競合企業のシェア、競合企業の特徴、業界のポジション、今後予想される行動など
  • 自社(Company):企業理念やビジョン、強み、リソース、事業や製品の状況など

自社に関連する情報を客観的に評価することで、独自性の発見や生存戦略を導き出しやすくなります。訴求ポイントを明確にしたいときや具体的なアプローチ戦略を策定するときに便利です。

5フォース分析

5つの脅威を整理し、市場への参入判断や戦略立案に活かすフレームワークです。

  • 競合他社:競合他社の数、シェア率など
  • 代替品:代替品となるものはないか(デジタルカメラ⇔スマートフォン)など
  • 売り手:仕入元との力関係など
  • 買い手:消費者の値引き交渉力や低価格競争など
  • 新規参入:技術力や資本力がある新規参入者のリスクなど

上記の力が強い業界は収益率が低くなる可能性が高く、市場参入のハードルが高いと考えられています。5フォース分析を行えば自社の強みや弱みを理解できるため、ABMを実施するときの競争力を高めてくれるでしょう。

「ABX」を意識する

ABMの先にある新しい考え方・戦略として注目されているのが、体験に焦点を当てたアプローチ(ABX:Account Based Experience)です。ABMでは、「個々のアカウントに対してパーソナライズを行い、すべての顧客接点で一貫性のある体験を提供する」ことを目指します。

ABMでは、「誰に対してどのような情報を提供するか」ということに焦点を当てています。それに対し、ABXでは「誰に対していつどのようにどのような情報を提供するか」に焦点を当てて、より顧客体験を向上させられる戦略を立てる点が特徴です。

質のよい顧客体験はビジネスの成果に直接よい影響を与えるため、近年ABXへの注目度が高まっているのです。ABMを実施するときは、ぜひターゲットアカウントに心地よい体験を提供することも意識してみてください。

 
ビギニャー

勉強になりますっ!ABMは難しそうですが、僕も挑戦してみたいなぁ。でも、具体的な施策とか導入プロセスがいまいちイメージできません。


 
シニヤン

そうだなぁ。それじゃあ、実際にABMを導入している企業の事例をみてみようか。

ABMの企業導入事例

よりABMへの理解を深めるために、ここでは実際にABM戦略を取り入れている企業の事例を2つ紹介します。

PayPay株式会社

キャッシュレス決済サービスを提供するPayPay株式会社は、ABMで営業活動を効率化し、大きな成果を挙げています。

もともと手作業による検索でターゲット企業をリストアップしていた同社は、作業効率の悪さと情報量の少なさによりマーケティング活動がうまくいっていませんでした。そこで、社内のSFAに蓄積していた企業データを更新し、欠損していた情報を補完して企業単位での傾向分析を実施しました。

さらに、日本最大の企業データベースを連携させ、取引を行っていない企業を抽出。顧客データ統合ツールを使って取引データを統合することで、効率よくアプローチするための営業基盤を整えました。

その結果、優先すべきターゲットの見極めやシステムの稼働がスピーディーになり、今では374万か所の加盟店、5,000万人のユーザー数※を誇るサービスに成長しています。

日本電気株式会社(NEC)

ITサービス事業を展開する日本電気株式会社(NEC)は、デジタルマーケティングとインサイドセールス、営業の3部門を密接に連携させるABMを実施しています。MAツールで創出されたリードを自動的にSFAへ共有し、チャットで営業部門にフォローを呼びかけるなど、スピーディーな情報共有や業務の効率化に成功しています。

特に意識したいのが、ターゲット企業の業務課題に適したメールマーケティングを行うことです。ABMの考え方を取り入れたアプローチ方法に変えた結果、平均1%だったクリック率が平均10%にまで上昇しました。※

他にも、幅広くコンタクトポイントを持つことやリードの精査に注力し、ワールドクラスのBtoBマーケティングを実現した企業として実績を残しています。

 
シニヤン

どの企業にも共通していえるのは、マーケティングツールの導入によってアプローチリストの精度を高めたり、部門間の連携を強化したりしている点だね。


 
ビギニャー

たしかにそうですね。ABMを成功させるには、デジタルマーケティングの導入や組織としての取り組みが不可欠だということがわかりました。先輩、ありがとうございます!


 
シニヤン

いえいえ、少しでも参考になったならうれしいよ。ABMについて理解が深まったようだし、企業のピックアップを進めていこうか!

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