フェムテックの市場規模はどれくらい？商品・企業事例や参入のポイントを簡単に説明

女性特有の課題をテクノロジーで解決する「フェムテック」は、年々市場規模が拡大している注目の分野です。この記事では、フェムテックの市場規模や意味、具体的な取り組み事例を紹介します。

現在、フェムテックの市場規模はどれほどのもので、どうして注目が集まっているのでしょうか。フェムテックに興味がある方や市場参入を検討している企業は、ぜひ取り組みのヒントにしてみてください。

• フェムテックの市場規模
• 市場規模が拡大する「フェムテック」とは？
• フェムテック商品・サービスの具体例
• 企業がフェムテック市場に参入するメリット
• フェムテック市場参入で意識したいポイント
• フェムテックに取り組む企業の事例

フェムテックの市場規模

女性が抱える健康問題やライフステージに応じた課題をテクノロジーで解決する「フェムテック」は、近年市場が急成長している分野として注目を集めています。そのため、フェムテックをビジネスに取り入れたり市場参入したりしたいと考えている企業は少なくありません。

現在、フェムテックの市場規模はどれほどのもので、今後どのようになっていくのでしょうか。ここでは、フェムテックの市場規模に関して押さえておきたい知識を紹介します。

• 日本のフェムテック市場規模
• 世界のフェムテック市場規模
• フェムテック市場の課題

以下では、各項目の詳細をみていきましょう。

日本のフェムテック市場規模

経済産業省の資料(作成：株式会社 日立コンサルティング)によると、2025年時点のフェムテックによる経済効果は年間約2兆円になると推計されています。

もっとも経済効果が高い分野が「妊娠・不妊分野」で、次いで月経分野となっています。これらの分野が注目されているのは、女性が抱える課題のなかでも重要度が高いことに加え、合計特殊出生率の低下や女性の社会進出などの社会的背景も影響していることは間違いないでしょう。

さらに、経済産業省はフェムテックを活用した女性の就業継続支援や補助金の交付を積極的に実施しており、国を挙げてフェムテックに取り組んでいます。今後は、さらにフェムテック業界への参入や社会の理解が進み、いっそう市場が拡大すると予測されています。

世界のフェムテック市場規模

経済産業省の資料(作成：Washington CORE)によると、世界のフェムテック市場収益は 2023年に12億ドルとなり、2033年までに50億ドルに達すると予想されています。市場規模に関しては、2025年には500億ドル規模にまで到達すると言及されています。

また、フェムテック企業全体の半数以上がアメリカ企業であり、次点でイスラエル企業、次いでイギリス企業であることも判明しました。今後も海外のフェムテック市場規模は拡大すると予想されており、BtoC商材のみならず、BtoB商材の増加や福利厚生の一環として利用する動きもみえてきています。

フェムテック市場の課題

市場拡大しているフェムテックですが、新しい分野であるだけに課題が残されているのも事実です。
ここでは、フェムテック市場の課題を3つ紹介します。

供給が偏っている

フェムテック市場では、商品やサービスが供給される分野が偏っています。現状、月経や妊娠関連の商品・サービスが圧倒的に多く、他の分野が極端に少ない状態です。

女性が抱える課題は、決して月経や妊娠関連だけではありません。今後は、他の分野に関する商品・サービスの拡充が必要になってくるでしょう。

需要が追いついていない

フェムテック市場に参入する企業が増えてきた一方で、需要が追いついていない点も課題のひとつです。

月経や更年期障害など、女性特有の課題・悩みに関して「しかたない」「どうにもならない」と考える女性は多く、解決のために行動を起こす人はごく少数です。加えて、インターネットや思い込みなどによる間違った知識が多く、ほとんどの女性は自身の健康について知らない・無頓着な状態にあります。

そのため、現時点ではフェムテック商品・サービスに対する需要がそこまで高いとはいえないのです。フェムテックや女性の健康に関する意識を高める啓蒙活動も、今後は重要になっていくでしょう。

ガイドラインや法整備が進んでいない

フェムテック業界では法律やガイドライン、認証制度等の整備が進んでいません。安全性や品質を保持するためには、早急に整備を進めていく必要があるでしょう。

企業には、フェムテックに関係する既存の法令やガイドラインを押さえておくだけではなく、最新の市場動向や法改正にもアンテナを張っておくことが求められます。

市場規模が拡大する「フェムテック」とは？

フェムテックがどのようなものなのか、以下の3つの観点から解説します。

• フェムテックとは簡単にいうと？
• フェムテックが注目されている理由
• フェムテックの関連用語

それぞれの詳細をみていきましょう。

フェムテックとは簡単にいうと？

フェムテックは、「Female(女性)」と「Technology(技術)」を掛け合わせた言葉です。わかりやすくいうと、女性が抱える健康課題をテクノロジー(技術)で解決するための商品やサービスを指します。

数年前に誕生した新しい言葉ですが、すでに世界各国から高い注目を集めています。現在は、コンピューター技術などが使われていなくても、女性のための商品・サービスをフェムテック商品と呼ぶことが増えてきました。

フェムテックが注目されている理由

フェムテックが注目されるようになったことには、4つの大きな理由があります。

女性の社会進出

女性の社会進出は、フェムテックが注目されるようになった大きな要因です。

近年、女性が働きやすい社会への関心が向上し、女性役員や起業家が増加しました。女性が市場に進出したことで、今まではタブー視されていたフェムテックに対する需要が高まっているのです。

テクノロジーの進化

テクノロジーの進化により、膨大なデータを活用した高度なサービスが提供できるようになったことも要因となっています。

今までは難しかった月経予測やオンライン相談、AI相談などが可能になったため、フェムテック商品・サービスの供給が一気に加速したのです。

社会問題への対応

政府にも推進されているフェムテックは、社会問題へ対応する役割も担っています。

フェムテック商材は、少子化対策や家庭と仕事の両立、高齢女性の健康リスク低減など、日本が抱える課題解決に直結するものばかりです。少子高齢化が進むこれからの日本では、ますます必要性が高まっていくでしょう。

国を挙げての推進

経済産業省が2019年に実施した調査によると、PMS(月経前症候群)による労働損失は、4,911億円と試算されています。女性が働きやすい社会はメリットが大きいとし、国を挙げてフェムテックに取り組んでいる点も、市場が拡大している要因でしょう。

フェムテックの関連用語

ここでは、フェムテックへと一緒に押さえておきたい関連用語を4つ紹介します。

フェムケア

フェムケア(Femcare)とは、「女性(Female)」と「ケア(care)」を組み合わせた造語で、女性の体や健康をサポートする商品やサービスを意味します。

フェムテックとの明確な違いは、定義されていません。しかし、AIやデジタル技術などのテクノロジーを活用したものを「フェムテック」、テクノロジーを活用していないものを「フェムケア」と呼んで区別することがあります。

フェムニケアフード

フェムニケアフードとは、「女性(Female)」と「ケア(Care)」と「食品(Food)」を合わせた、株式会社明治による造語です。女性特有の健康課題と向き合い、女性の心と体をケアする食品を指します。

まだまだ市場参入している企業は少ないですが、今後フェムテックとともに注目度が高まっていく可能性があります。

メイルテック

メイルテックは、「Male(男性)」と「Technology(テクノロジー)」をかけ合わせた造語で、男性特有の課題を解決するための商品・サービスを指します。フェムテックの男性バージョンだと考えると、わかりやすいでしょう。

男性不妊やED、薄毛など、メイルテックも非常にデリケートな問題を対象としています。

ジェンダード・イノベーション

ジェンダード・イノベーションとは、科学や技術、政策などに生物学的・社会的性差分析を積極的に取り入れることで、新しい価値を生み出す概念です。男性と女性の違いをポジティブにとらえ、技術革新や発見の実現を目指します。

男性と女性の間には体力や体の構造・機能などの生物学的な違いがあることをふまえたうえで、性別に応じた医療分野の研究を行うことが一例として挙げられます。

フェムテック商品・サービスの具体例

フェムテック商品・サービスは、大きく分けると以下の6つに分類できます。

• 月経
• 妊活・不妊
• 妊娠・産後ケア
• 更年期
• ウェルネス
• セクシャルウェルネス

各分野の概要をみていきましょう。

月経

月経の悩みや負担を軽減するための商品・サービスです。心や体の負担が大きい期間を快適に過ごせるようにするだけではなく、「環境にやさしいものを使いたい」などの理由から、繰り返し使える月経関連アイテムへの注目度も高まっています。

具体的な例

• 月経周期を管理するアプリ
• 月経カップ
• 吸水ショーツ
• ピルのオンライン処方サービス

妊活・不妊

妊活や不妊で悩む女性や夫婦のために、妊娠をサポートする商品・サービスです。女性が自身の心と体をよく理解し、適切な情報を得て意思決定できるように支援します。女性はもちろんのこと、そのパートナーとなる人へのサポートや啓蒙活動も行います。

具体的な例

• 妊活相談アプリ
• 排卵検査薬
• ホルモンの検査キット
• 精子検査キット
• 妊娠に関するカウンセリングサービス

妊娠・産後ケア

心と体が不安定になりやすい、妊娠期や産後の母親をサポートする商品・サービスです。心身に大きな変化と負担がもたらされる妊娠中から産後、育児までを包括的に支援し、母子ともに健康に過ごせるよう支援します。

具体的な例

• 妊娠期の体調管理アプリ
• 産後のメンタルヘルス相談サービス
• 授乳管理アプリ
• マッサージ機能付き搾乳機

更年期

女性ホルモンの分泌量が低下し、心身の不調が気になり始める「更年期」や更年期が過ぎたあとの「ポスト更年期」の女性をサポートする商品・サービスです。更年期障害の症状は、悪化すると日常生活に影響を与えることもあります。症状を軽減していきいきと過ごせるよう、テクノロジーの力で支援します。

具体的な例

• 更年期障害に関する情報提供
• ホットフラッシュに配慮した衣類
• ホルモンの検査キット
• 体調を管理するウェアラブルデバイス
• オンライン相談サービス
• ゆらぎ期の女性をサポートするサプリメント

ウェルネス

子宮疾患や乳がんなど、女性特有の疾患に悩む人をサポートする商品・サービスです。現在進行形で健康問題を抱えている女性だけではなく、病気を予防したい女性や病気を克服した女性向けの商材も含まれます。特に、仕事と家庭が忙しく受診が遅れがちな女性が多いため、疾患を早期発見する技術が注目されています。

具体的な例

• MRIの無痛乳がん検診
• HPVウイルスの検査キット
• AI診断支援ツール
• 体調を管理するウェアラブルデバイス

セクシャルウェルネス

性教育や性的な充足感の向上をサポートする商品・サービスです。近年は、タブー視されていた女性の性についてオープンに語られることが増えました。リラックスタイムやパートナーとの時間を充実したものにするだけではなく、性感染症による健康リスクを低減することも、フェムテック商材の重要な役割です。

具体的な例

• 性感染症のテストキット
• 性交痛を軽減するリング・ジェル
• プレジャートイ
• デリケートゾーンケア商品
• 膣トレグッズ
• 性病のオンライン相談窓口

企業がフェムテック市場に参入するメリット

企業がフェムテック市場に参入することには、以下の4つのメリットがあります。

• 中小企業にもチャンスがある
• 女性が活躍しやすい企業風土になる
• 新規事業の柱になる可能性がある
• 注目を集められる

どのようなことなのか、詳しくみていきましょう。

中小企業にもチャンスがある

自社リソースを活かしてスモールスタートできるのが、フェムテックの魅力です。そのため、中小企業にもフェムテック市場で成功するチャンスがあるのです。

例えば、ECサイトを運営する企業ならフェムテック商品の販売に挑戦できるでしょう。衣類メーカーなら吸水ショーツの製造、オウンドメディアを運用している企業なら女性の健康に関するサイト運営などが検討できます。

従来のフェムテックの発想に、自社商材・ブランドならではの強みを組み合わせれば、他社にはない強みを持つ魅力的な商材が生まれるかもしれません。

女性が活躍しやすい企業風土になる

フェムテック市場へ参入することになれば、フェムテックやヘルスリテラシーに触れたり学んだりする機会が増えます。その結果、女性の健康に関する知識が深まり、社内全体における女性への理解促進が実現する可能性があるのです。

社員同士が互いを思いやる企業風土が出来上がれば、女性が長く快適に働ける企業になるでしょう。

新規事業の柱になる可能性がある

注目度が高まっているとはいえ、フェムテックはまだまだ参入企業が少ない領域です。競合が少なく参入障壁も低いため、今のうちから挑戦しておけば、将来的にビジネスの柱になる可能性を秘めています。

さらに、政府が推進しているフェムテック領域には補助金が多く、資金調達しやすい点も大きなメリットです。

注目を集められる

フェムテックに取り組むことで、新しい領域に取り組んでいる企業として注目を集められるでしょう。女性のために取り組んでいることを発信すれば、ステークホルダーや女性求職者へのアピールになりますし、社会的なイメージアップも狙えます。

フェムテックへの注目度が高まっている今だからこそ、メディアなどへの掲載チャンスも訪れるかもしれません。

フェムテック市場参入で意識したいポイント

フェムテック市場参入を成功させるためには、以下のポイントを意識する必要があります。

• 女性のニーズをしっかりと理解する
• 幅広い年齢層をターゲットにする
• 教育活動を行う
• デザインに気を配る
• デジタル技術を活用する
• プライバシーとセキュリティ対策に力を入れる
• 法律や広告ガイドラインに注意する
• 助成金を活用する

各項目の詳細をみていきましょう。

女性のニーズをしっかりと理解する

女性のライフスタイルや健康、人生にかかわるフェムテック領域には、多くのニーズが隠されています。ニーズを深掘りすれば、今までにない革新的なアイデアや女性の気持ちに寄り添った商品のヒントがみえてくるかもしれません。

フェムテックに取り組むときは、ユーザーの悩みや願望をしっかりと理解し、技術だけではない価値の提供を提供することが大切です。ニーズをしっかりと汲み取るためにも、必ずチームのメンバーに女性を含めましょう。

幅広い年齢層をターゲットにする

現在のフェムテック市場では、月経や妊娠・不妊、更年期などに悩む女性がフォーカスされがちです。しかし、フェムテックの対象者はそれだけではありません。

月経がはじまる前の子どもや、性教育を必要とする若者、更年期後の不調に悩む女性など、心と体に関する悩みを抱える女性の年齢層はさまざまです。ターゲット層を絞り込みすぎず、幅広い年齢層への価値提供を意識してみましょう。

教育活動を行う

女性の健康や性に関する教育・啓蒙活動も、フェムテック業界を担う企業の重要な役割です。商品やサービスを提供するだけではなく、自身にとって最適な意思決定ができるよう、知識面からのサポートも実施しましょう。

このような女性に向けた教育活動は、企業のイメージアップにも効果を発揮してくれます。

デザインに気を配る

健康や性の問題に対して、「タブー」「怖い」というイメージを持つ女性は多いものです。そのような人々にも抵抗なくフェムテックを取り入れてもらえるよう、安心して利用できるデザインにすることが大切です。

「明るくポップなパッケージにする」「写真やイラストを活用して雑誌感覚で読めるサイトにする」など、親しみやすさを演出することが大切です。女性ユーザーの意見を取り入れて、楽しみながら使えるデザインに仕上げましょう。

デジタル技術を活用する

AIやビックデータを活用した技術の提供はもちろんのこと、アプリの提供やWeb相談など、フェムテック商品の開発や提供にはデジタル技術が欠かせません。

人に相談しにくいフェムテック関連の悩みを検索エンジンやSNSで検索する人も多いので、情報提供もデジタルで行うと効果的です。

プライバシーとセキュリティ対策に力を入れる

フェムテック商材を求めるユーザーのなかには、「悩みを周囲に知られたくない」と考える方が多いものです。そのようなユーザーから信頼を得るために、プライバシーへの配慮やセキュリティ対策には力を入れましょう。

サービスを提供する際は、プライバシーが必ず守られることを説明できると、安心して利用してもらえます。

法律や広告ガイドラインに注意する

フェムテック関連の商材を取り扱うときは、薬機法や広告ガイドラインを守る必要があります。雑貨なのに医療品のような効果・効能があることを謳ったり、事実以上に商品をよくみせたりする表現は罰則の対象となるため注意しましょう。

例えば、薬機法上の承認を受けていない吸水ショーツは、経血吸収性能を有すると認識させる広告表現ができません。ガイドラインを遵守のうえ、適切な広告表示をする必要があります。

また、媒体の広告ガイドラインによっては、フェムテック商品が「セクシャル」「センシティブ」と分類される場合があります。広告配信が制限されるケースも珍しくないので、注意しましょう。

助成金を活用する

フェムテック領域に取り組む企業は、さまざまな機関から助成金の交付が受けられます。参入を検討している場合は、ぜひ助成金を活用してよりよい商品・サービスの開発や提供を目指してみてください。

助成金の一例としては、次のようなものが挙げられます。

• 女性活躍のためのフェムテック開発支援・普及促進事業(東京都)
• フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金(経済産業省)

自治体や年度によって実施される補助金事業は異なるので、常に最新の情報を収集しておきましょう。

フェムテックに取り組む企業の事例

実際にフェムテック領域に取り組み、成果を出している企業の事例を2つ紹介します。

株式会社ルナルナ メディコ

株式会社ルナルナメディコは、月経管理アプリ利用者数No.1の「ルナルナ」に登録した月経期間や基礎体温、低用量ピルの服薬情報などを、医療機関受診時に手間なく閲覧できるWebサービスを提供しています。

受診時は、事前に発行した6桁のデータ番号を医療機関に伝えるだけ。医師は、普段使用しているデバイス上で必要なデータを閲覧できます。

患者側は問診表に月経期間や基礎体温などの情報を転記する負担が軽減され、医師側は正確な情報を知れるため、双方にとってメリットが大きいサービスであるといえます。

花王株式会社

花王株式会社は、福利厚生の一部としてフェムテックに取り組む企業です。

そのひとつとして、女性社員が気軽に健康に関する悩みを相談できる「女性の健康相談窓口」を導入しました。さらに、ライフステージごとの健康課題を積極的に発信し、自身の体や健康に関する課題発見や理解促進に取り組んでいます。